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今夜はマキマキ。
 「いよいよ今夜ですね」
隣の席の唐木田君が、更にその隣の部長にそう言った。

 「うん、そうだな。またその季節がやってきたか。また歳とるんだなあ……」
「ははははっ。いやいや、部長はまだまだお若いですよ」
「いやあ~去年のマキマキではつくづく体力の衰えを実感したから、今年はどうなる事か?」
「いや、でも、楽しい事には変わりありませんから。マキマキ」
「そうだな。唐木田君。まっ、楽しもう。ははははっ」

 俺はその会話の意味がまったく判らなかった。
なにぶんにも、この地方に東京から転勤してきてからまだ2ヵ月足らず。
まだまだ勝手が判らないのだ。

 それにしても、マキマキて何だ?

 「あのっ、唐木田君。マキ……」

「唐木田さああああああんんんん~!!!!!!右浜田精密工機の生田さんからお電話ですうううううう~!!!!!!」

 唐木田君にマキマキの事を聞こうとした途端。事務の秦野さんの大声がそれを遮った。

 「ああっ、すいませんね。秦野さん回してください」

 チリチリンリン♪

「あああ、もしもし。唐木田です。えええ、なにぶんにもマキマキですから。えええ、定時で帰りますよ。あああ、そちらはもう終わりですか。それはいいですね。まあ楽しんでください。はいはい、じゃまた」

 ガチャ。

 「あのぅ、唐木田君。マキ……」

「唐木田君!!!!!ワシもう帰るよ!!!!!!!!」

 今度は、部長の大声がそれを遮った。

 「えええっ!部長。帰るんですか!!!!」
「あああ!!!まっ、君達も早めに帰ってくれたまえ、なにせっ!!今度はマキマキだから!!」
「そっすねっ!帰りましょ!帰りましょ!」
「じゃ、私も帰ります!!」
「あっ、新松田君。君も早く帰ってくれたまえ」
「あのっ!部長!マキ……」
「じゃ!お先に!!!」
「お先に!!!」
「お先です!!!」
「お先!!!」

 ああああああっ……。
俺の質問に誰も答えることなく、あれよ、あれよ、という間に皆帰ってしまった……。

 結局……マキマキとは?いったい何なのか?
この地方に昔から伝わる祭りみたいな物か?
うんんん……。

 まっいいかっ、夜になれば何か判るだろ。
さっ、俺も帰ろっ。





 家に帰ると、やたら豪勢な食事が準備してあった。
鰻、スッポンスープ、焼肉、豚カツ、ヤマイモ、あん肝、レバー、馬刺し、納豆、おくら、生卵、更に食卓の隅には赤マムシドリンクが5本。

 「おいおい、何だコレ!やたら精のつくものばっかり用意して」
「だってぇ今夜はマキマキですものぅアナタには頑張ってもらわなくちやぁ」
「えっ!!!!!」

 俺は驚いた。
妻はマキマキの事を知っているのだ。
そして、ええとっ?この地方の出身じゃないよなっ、東京だよなっ……。
そんな事をチラッと考えた。

 「あの、おまえ、マキマキって何だか知ってるのか?」
「あら、アナタ!ウフ♡」
「ウフ♡ってっ……」



 とっ!その時であった。


外から音がしてきた。



マキマキ


マキマキマキマキ


マキマキマキマキマキマキ


マキマキマキマキマキマキマキマキ




マキマキと聞こえる。

そして、その音は徐々に大きくなっていった。



マキマキ



マキマキマキマキ



マキマキマキマキマキマキ



マキマキマキマキマキマキマキマキ



マキマキマキマキマキマキ




マキマキマキマキマキマキ





マキマキマキマキマキ








 「おおっ!!!





  いったい





   何だあ~っ!!」







 俺は、驚いて即座にドアから外に飛び出した。






「いったいぃぃ~?!」






 とっ、俺が暗闇に目を凝らした次の瞬間!!

俺の頭の後ろで、

ボコっと音がして、

目の前に星が飛び散り意識が遠のいていった……。































 気がついたら、朝になっていた。

「あら、アナタおはようぅ」

そして、満足げに微笑むツマの姿があった。














「おおおおお~っ!!







っかっっ!!!







いったいぃ~っっ!!







マキマキってっ!!!







何だあああ~っ!!」

by katuo0076 | 2005-08-12 10:57
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