今朝も、また店長と目があった。
「今日こそは買いませんか?」
店長の目は、そう訴えかけていた。
冬。
毎朝、駅前のコンビニで肉まんを買い続けた俺は、すっかり店長に肉まんおやじとして覚えられたようだった。
俺が、何の商品を持たずにレジ前に立つと、店長は、すかさず「肉まんですね」と言う様になったのだった。
初夏。
さすがに、コンビニから肉まん保温ケースがなくなる時がきた。
肉まん保温ケースがないので、俺が、おにぎりを持ってレジに現れると、
店長は「昨日で肉まんやめちゃったのですよ」
と、少し寂しそうに、俺に声をかけた。
おそらく、店長は、すかさず「肉まんですね」と言う事に、プロ意識を感じていたのだろう。
そう思うと、俺も、少し寂しかった。
夏。
俺は、ひたすら、おにぎりを買い続けた。
店長は、ひたすら、無言。
その目は、いったい、何を見詰めていたのだろうか。
そして、10月。
駅前のコンビニに、また、あの、肉まん保温ケースが出現した。
まるで、俺が、その前に立ち止まるのを待っているかのように、その保温ケースは、温かいひかりを放っているかのようだった。
そして、その後ろに控える店長は、俺が、何も持たずにレジ前に立つのを待っているかのように佇んでいた。
きっと、店長は、すかさず「肉まんですね」と言いたいのに違いない。
だが、だが、だが、だが。
申し訳ない。
店長。
まだだ、まだだ、まだだ。
まだなんだ。
まだ、10月とはいえ暖かいのだ。
店長。
寒い朝。
とても、とても、寒い朝。
凍える掌に持つ肉まん。
その、温かさ。
俺は、其れを求めているのだ。
まだだ。
まだ。
まだ。
まだ早い。
店長。
すまない。
もう少しだけ待ってくれ。
今年、初めての寒い朝が来た時。
俺は、何も持たずに、レジの前に立つだろう。
その時こそ、店長。
すかさず「肉まんですね」と言ってくれ。
前と何一つかわりない口調で。